ドイツ・オーストリア・スイス
〇 バーゼル・スコラ・カントルム合奏団 Schola Cantorum Basiliensis (SCB)
1933年、バーゼル・スコラ・カントルムは古楽の研究のために創立された学校。Paul Sacher (1906-1999)が設立者であり、Ina Lohr (1903-1983) とAugust Wenzinger (1905-1996)、Max Meili(1899- 1970)が共同の設立者。1930年代にチェンバロを20世紀に復興したワンダ・ランドフスカWanda LandowskaがPaul Sacher に招かれてスイスに赴いたのがこの学校の歴史の始まりである。
アウグスト・ヴェンツィンガー(August Wenzinger, 1905 - 1996)はチェロの奏者だったが、1930年代に古楽器を復元し、特にヴィオラ・ダ・ガンバを復元演奏した。古楽器の室内楽合奏団を1930年代に設立している。彼はこの学校で教鞭をとっていたが、元学生が、グルタフ・レオンハルト、ジョルディ・サヴァール(チェロ&ヴィオラダガンバを習っていた関係上、直接の弟子となる)らになる。1970年代まで、古楽を教える学校はここだけであり、現在もこの学校は古楽の教育拠点として活動している。アウグスト・ヴェンツィンガーの演奏は後述のカペラ・コロニエンシスにせよ、ゆったりとしたテンポの演奏だ。このバーゼル・スコラ・カントルム合奏団としての録音は1950年代まで。それ以降は見つけることができない。
〇 ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス Concentus Musicus Wien、Ensemble für Alte Musik
1953年にニコラウス・アーノンクール(1929 - 2016)とその妻アリス・アーノンクールを中心としたウィーン交響楽団のメンバーによって設立。初の公開コンサートは1957年に行われた。アーノンクールの前衛的な古楽器演奏の中核をなした団体として世界中にその名前を知られた。2019年現在Stefan Gottfriedが責任者。今後の活動が注目される。
ちなみにこの団体以前にアーノンクールは1950年に下記の録音を入れている。月日は不明。アウグスト・ヴェンツィンガーのブランデンブルグ協奏曲の録音とどちらが古いかはわからない。
Wiener Kammerorchester, Joseph Mertin
Bach: Brandenburg Concertos
バッハ:ブランデンブルク協奏曲 BWV.1046-1051(全曲)
ニコラウス・アーノンクール(チェロ)
グスタフ・レオンハルト(第5番:チェンバロ独奏)
エドゥアルド・メルクス(ヴァイオリン)
ヨゼフ・メルティン(指揮)
ウィーン室内管弦楽団
【録音】
録音:1950年(モノラル)/ウィーン
バッハ没後200年記念として、1950年に録音されたブランデンブルク協奏曲。21歳のアーノンクール(ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス設立以前)、22歳のレオンハルトが参加しています!ウィーン国立音楽院で古楽クラスの教師を務めていたヨゼフ・メルティンによる指揮で、ふたりはメルティンの生徒でもありました。他にもエドゥアルド・メルクスや、のちにアーノンクール夫人となるアリス・ホフェルナーなど、錚々たるメンバーが集まっています。2016年頃世界発売。
Supraphon-キングインターナショナル
〇 カペラ・コロニエンシス Cappella Coloniensis
1954年に設立されたドイツのケルンを拠点に活動する古楽器オーケストラ。 バーゼル・スコラ・カントルム合奏団のアウグスト・ヴェンツィンガーが1954年から1958年の間率いていたという(不思議なことに、今のHPには創立者である彼の名前は出ていない)。設立時から西ドイツ放送局の支援を受け、古楽演奏がまだ充分認知されていない頃から積極的に演奏活動を行ってきた。アウグスト・ヴェンツィンガーが1955年にモンテヴェルディのオペラ・オルフェを最初に録音したとされている。1960年代から世界各地に演奏旅行を行っており、来日もしている。ウィリアム・クリスティ(録音あり)、ガーディナー達も指揮台に立っている。1980年代に入り、イタリア人指揮者Gabriele Ferroが音楽監督になり、ロッシーニ、ワーグナー等のロマン派の演奏も行うようになった。この時期はハンス=マルティン・リンデ(Hans-Martin Linde, 1930年 - 後述)との録音も多い。1997年以降ブルーノ・ヴァイルがしばしば客演し、ハイドンの交響曲や、ワーグナーのオペラが話題になったようだ。現在も活動中でHPあり。2019年現在ブルーノ・ヴァイルが指揮者、ヒロ・クロサキが主席コンサート・マスターとなっていて、30人程がメンバーとなっている。ハイドンの交響曲全集は、ブルーノ・ヴァイル&ターフェルムジークとSONYだったが、録音が進んでいくうちに、そこを辞めて、ブルーノ・ヴァイル& カペラ・コロニエンシスとArs Produktionで録音を継続している。SONYは採算が取れなくて辞めたのかもしれない。
ディスコグラフィを見ると、有名な曲をわざと避けているような渋い選曲で、この団体があまり知られていない原因になっていると思われる。アウグスト・ウィンツィンガーの演奏は時代遅れとして忘れ去られ、リンデの演奏は穏当で当時のロック調の過激な古楽の流れには合わず、しかもリンデ・コンソールとの録音が多かった。ブルーノ・ヴァイルもカナダのターフェル・バロックとの録音がメインだったのもあると思われる。古楽器の世界で70年の歴史があるにもかかわらず、団体の知名度がもう一つなのは、ある意味で興味深い。
〇 コレギウム・アウレウム合奏団 Collegium Aureum
1962年、フライブルクを拠点とするレコード会社「ドイツ・ハルモニア・ムンディ」との緩やかな結束から起こった(ドイツ・ハルモディア・ムンディのための団体と明確に書いているものもある)。バロック音楽から初期のロマン派音楽までを演奏・録音。指揮者を置かず、コンサートマスターをリーダーとした。ヴァイオリニストのフランツヨーゼフ・マイヤー(Franzjosef Maier)が中心。1998年頃には解散。草創期には、レオンハルトやクイケン兄弟、ビルスマ、ラインハルト・ゲーベル(フランツヨーゼフ・マイヤーの弟子らしい)もここで活動している。一時期古楽器演奏のレフェランスだったが、現在では古楽器を使用した現代的な演奏という折衷様式という扱いだけでなく、「時代遅れ」という扱いになってしまっているのが残念。
〇 カペラ・アカデミカ・ヴィーン Capella Academica Wien
1965年にエドゥアルト・メルクスによって設立(設立年は日本語のWIKより)。彼は1950年の師マルティンとアーノンクール&レオンハルト達のブランデンブルグの録音のヴァイオリンを務めた。音楽院在学中の1949年から1951年までニコラウス・アーノンクールらとウィーン・ガンバ四重奏団、1952年から翌年までカール・シャイト、メルティン、グスタフ・レオンハルトらとスコラ・アンティクワ・ウィーンを結成して古楽器演奏の経験を積んだ。音楽院卒業後、1955年にチューリヒ・トーンハレ管弦楽団に入り、スイスに移住。アウグスト・ヴェンツィンガー、ペーター・リバール、エドゥアルト・ミュラーらと共演した。1958年にウィーンに戻り、母校のウィーン音楽院で教鞭をとった。1965年にチェンバロ奏者のユゲット・ドレフュス達とカペラ・アカデミカ・ウィーンを結成し、その指揮者として多くの録音を手掛けた。アルヒーフ初期の古楽器の録音の中心人物の一人。その後1970年代に入り、盟友アーノンクールやホグウッド、ガーディナー、ピノック、ムジカ・アンティクワ・ケルン達が古楽の中心となり、ウィーンの響きを残したメルクスの演奏は時代遅れの扱いとなっていく。しかし、2019年現在でも1928年生まれの彼とこの団体は演奏活動を続けているようだ。先年20枚組のCDがアルヒーフから出た。クルト・レーデルやアウグスト・ヴェンツィンガーとの録音も多い。
〇 リンデ・コンソール Linde Consort
1972年、ハンス=マルティン・リンデとバーゼル・スコラ・カントルムの同僚たちが設立。
ハンス=マルティン・リンデ(Hans-Martin Linde, 1930年 - )は、ドイツ出身のフルート奏者、リコーダー奏者、指揮者。彼は1957年からバーゼル・スコラ・カントルムの教師となり、アウグスト・ヴェンツィンガーの率いる合奏団にフルート奏者として在籍した。1972年にはバーゼル・スコラ・カントルムの同僚たちとリンデ・コンソートを結成している。1976年から1979年までバーゼル音楽院の院長を歴任し、1979年からは1995年まで同音楽院で合唱指揮の講座と音楽院の合唱団の指揮を担当した。 ルドルフ・バウムガルトナーのグラモフォンの最初のブランデンブルグ協奏曲の録音(1960年)や、カール・リヒターの同曲の録音ミュンヘン・バッハ管(1967年)にも参加。自分のリンデ・コンソートでもEMIで1980年代にブランデンブルグ協奏曲を録音。カペラ・コロニエンシス Cappella Coloniensisを指揮しての録音も多数残っている。ヒロ・クロサキとも録音あり。レオンハルトやアウグスト・ヴェンツィンガーとの録音もある。また、教師として門下生多数。リコーダーの教本等出版でも知られている。バーゼルに古楽の学校があるにもかかわらず、その地元に有名な団体がないのは何故かと思ったが、ここがそれになるのかもしれない。現在活動は休止。いつ頃まで活動していたのだろうか。リンデはブリュヘンと同時代のライバルで、リコーダー奏者としてはブリュッヘンよりも彼を推す人も少なくない。
〇 ムジカ・アンティクヮ・ケルン Musica Antiqua Köln (MAK)
1973年にラインハルト・ゲーベル(Reinhard Goebel 1952 ‐)と、ケルン音楽大学の卒業生によって結成された古楽器アンサンブル。この団体の成功に触発されて、1980年代多くの団体がケルンで活動を行うようになった。Collegium Cartusianum, Les Adieux, Camerata Köln, Concerto Köln 等。快速なテンポで駆け抜ける新しいスタイルの古楽器演奏は一世を風靡した。2007年に解散。アルヒーフに膨大な録音を残した。
ラインハルト・ゲーベルは後年ベルリン・バロック・ゾリステンとブランデンブルグ協奏曲を再録音している。
〇 カメラータ・ケルン Camerata Köln Camerata de Cologne
1979年、フルート奏者ミハエル・シュナイダーMichael Schneiderが設立。現在でも活動しているのか、5人の奏者がHPに出ている。(2018年)。この団体もテレマン等多数録音。ミハエル・シュナイダーはフランス・ブリュッヘンの孫弟子になる。ミハエル・シュナイダーはフランクフルト音楽大学で教鞭をとるだけでなく、モダンオーケストラまで指揮している。
〇 ラ・スタジオーネ・ フランクフルト La Stagione Frankfurt
1988年、 フルート奏者ミハエル・シュナイダーMichael Schneiderが設立。カメラータ・ケルンと異なり、こちらは規模の大きな団体。ミハエル・シュナイダーがそのまま音楽監督となっている。ヴィヴァルディ等100枚以上CD録音。
〇 アンサンブル415&キアラ・バンキーニ Ensemble 415 & Chiara Banchini
1981年設立。1946年生のキアラ・バンキーニはスイス・ルガノ出身の女性ヴァイオリニスト。シギスヴァルド・クイケンやアーノンクールと共演した後、アンサンブル415を設立。妊娠して、地元から出れなくなったのが設立理由だと来日時のインタビューに答えている。当時はアーノンクールを呼んでも、コンサートで殆ど客が入らなかったとか。2011年にさよならコンサートをするまで多数の録音を残している。1991年から20年間バーゼルのスコラカントウムの教授だった。ファビオ・ビオンディはアンサンブル415の最初期のメンバー。アマンディン・ベイエはバーゼルでの門下生の一人。
〇 ベルリン古楽アカデミー Akademie für Alte Musik Berlin
1982年に東ベルリンに設立された古楽器オーケストラ。1987年に最初のCDをリリース、1994年よりフランス・ハルモニア・ムンディに多数の録音を残している。ルネ・ヤーコプスやチェチリーア・バルトリとの関係が深い。 当初から公的な援助を一切受けないで活動している。現在30人強のメンバー。ミドリ・ザイラーMidori Seiler, Stephan Mai, Bernhard Forck, Georg Kallweitの4人がリーダーだったが、ミドリ・ザイラーは2014年に辞め、2019年現在残りの3人がリーダーと思われる。
〇 コンチェルト・ケルン Concerto Köln
1985年に設立されたドイツのケルンに本拠を置く古楽器オーケストラ。設立当初より常任の指揮者は置いていないが、ルネ・ヤーコブスとの関係も深い。あまり演奏されない作品を世に出すことに特別な関心を寄せていて、1992年から、ケルン古楽祭を催している。ジュリアーノ・カルミニョーラとのバッハもある。芸術監督をロレンツォ・アルペルトが務める。ホフマン、平崎真弓と佐藤俊介、3人のコンマスの内2人が日本人。
〇 レ・ザデュー Ensemble Les Adieux
1986年ケルンに設立。アンドレアス・スタイアー(彼もムジカ・アンティクワ・ケルンに1983年から1986年所属した)やムジカ・アンティクワ・ケルンの創立時のメンバー、チェンバロ奏者ヘンドリック・ボーマンHendrik Bouman 達が設立。1990年代の録音まではあるが、現在には繋がっていない。HPもWIKもない。Hendrik Boumanはサイモン・スタンデイジSimon StandageとThe Baroque Museという団体を2009年に設立している。2人とも拠点を失った者達の団体かもしれない。
〇 フライブルク・バロック管弦楽団 Freiburger Barockorchester
1987年に設立されたフライブルクに本拠を置く古楽器オーケストラ。設立当初より1997年までトーマス・ヘンゲルブロックが芸術監督を務めた(彼はアーノンクールのウィーン・コンツェルト・ムジクス出身)。団員は約27人。現在音楽監督はゴットフリート・フォン・デア・ゴルツと鍵盤奏者のクリスティアン・ベザイデンホウト(2017年より)の2人体制。常任の指揮者はいないが、 ルネ・ヤーコプス、パブロ・エラス=カサド、フィリップ・ヘレヴェッヘ等が指揮台に上っている。独仏双方のハルモディア・ムンディその他多数のレーベルに録音している。ピリオド(古楽)オーケストラのベルリン・フィルとの呼び声高い。